■設立10周年記念フォーラム

設立10周年記念フォーラム
情報科学のニューチャレンジ
「身体性にせまる情報技術」開催

日 時: 平成18年1月28日(土)
  講演会:10:00〜18:00
記念パーティ:18:15〜20:00

会 場: 名古屋マリオットアソシアホテル
16階 タワーズボールルーム

 本財団は、2006年3月に設立10周年を迎えました。これを機に、「設立10周年記念フォーラム」を開催しました。
 先回、5周年記念フォーラムの表題で「情報新世紀」と謳った今世紀では、予想どおり広大なサイバースペースが展開されています。フォーラムでは、これと対照的にミクロコスモスとしての身体に焦点を当て、それへの近接を「情報科学のニューチャレンジ」と銘打ち、講演会の表題を「身体性にせまる情報技術」として、ロボット技術、身体仮想化技術、および脳科学の三つを主テーマに選び、それぞれの課題について各界トップの講師の方々を招いてご講演をいただきました。参加された皆さんも素晴らしい講演を聴けたと好評で、フォーラム後の懇親会では講師を囲んで話題がつきず、そこかしこで交流の輪が広がっていました。
設立10周年記念フォーラム実行委員長
福村 晃夫


プログラム
(敬称略)
<フォーラム・午前の部> 10:00〜12:30
講演1.「ロボットと情報技術」
テーマ
「脳と心の理解を目指すヒューマノイド・サイエンス
パネラー
大阪大学大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻
JST ERATO浅田共創知能システムプロジェクト総括 教授
 浅田 稔
ガイド
日本が世界をリードに終始している人間型ロボットであるヒューマノイドは、現在、急速にその技術が発展しているものの、表層的な機能実現に終始しており、身体に基づく知能創発の設計論が確立していない。脳とロボット両研究分野が有機的に結びつけば、ロボット技術を駆使した検証手段を用いることで日本独自の脳科学の進展が望める。更に、これらの検証手段に耐えうる人工物を設計することは、現状のロボットセンサーやアクチュエータなどのマテリアルや従来の人工知能/制御技術に革新を迫るだけでなく、知能の新たな設計論を確立できる。本講演では、このような背景から、知能の設計を人間を含めた動的環境内での相互作用(環境・ヒト・ロボット)の中から導く、新たな科学技術分野「ヒューマノイド・サイエンス」について、その概要と研究例を紹介する。
テーマ
「ヒューマノイドの発展的構成論と創造情報学」
パネラー
東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻 教授 稲葉 雅幸
ガイド
ヒューマノイドをプラットフォームとして利用できる今日、ヒューマノイド研究は作り方の研究だけでなく、使い方の研究を展開できるようになった。人が道具を使ったり創ったりするような創造的な知能の実証的研究なども不可能ではない時代となった。使い方の研究は、人の望みを扱う情報学の研究に通じる。望みは創造行為を培う。社会や生活での活動支援、身体をもつ知能の原理や脳と心の解明など、ヒューマノイドに期待される望みは広く、使う側の創造力、作り方研究の実現力が前提となる。
本講演では、小型から等身大、全身筋骨格形などのヒューマノイドを継承と発展が可能な作り方の研究を進めている発展的構成論研究と、新しい情報学を描きつつ作り方だけでなく使われ方への研究から、創造性を発揮し実践的な大学院教育を行おうとして2005年に東京大学に新しく発足した創造情報学専攻における研究教育活動等を紹介する。
<昼食交流会> 12:30〜13:30
<フォーラム・午後の部> 13:30〜18:00
講演2.「身体と情報技術」
テーマ
「CAD、CASの発展と仮想化人体の利用」
パネラー
中京大学生命システム工学部 教授 鳥脇 純一郎
ガイド
仮想化された人体(virtualized human body 以下VHB)の考え方を提案して約10年になる。この間、少なくとも仮想化内視鏡システム(virtual endoscopy system 以下VES)は必要なら容易に試用できるレベルになっている。それとは別に、コンピュータ支援診断(computer aided diagnosis 以下CAD)およびコンピュータ外科(computer aided surgery 以下CAS)として意識され得る事柄が着実に進歩し、臨床的にも様々な形で使われ始めた。本講演では、CAD、CASの発展の中でVHBがどのような役割を果たしているか、あるいは、どこに限界や問題があったかを検討し、今後どのような展開が期待されるかを考察してみる。
テーマ
「手術戦略システム・精密治療の現状と展望」
パネラー
東京女子医科大学先端生命医科学研究所 助教授 伊関 洋
早稲田大学生命医療工学研究所 客員教授
ガイド
精密手術を効率的に行うためには、術中画像特にMRIの形態を中心とした画像だけでは無く、種々のイメージングを活用した高度な統合医療情報とその有効な活用が重要である。直前の術中画像をリアルタイムにアップデートするナビゲーション技術により、術中のbrain shift(手術操作による脳の変形・移動)を回避し、手術操作を正確に且つ安全に支援することで、機能領域の悪性腫瘍をぎりぎりの切除にまで肉薄できるようになってきた。この新しい手と新しい目で可視化された医療画像情報を基に、手を正確に且つ安全にコントロールする新しい脳(戦略デスク)で構成された、次世代の手術システムも射程距離に入ってきた。医療情報を統合管理し、戦略を決定する戦略デスクと双方向的に連繋する前線とも言うべき手術室の情報管理デスクが運用するシステムで、外科手術が精密手術として運用される日も近いことを述べる。
講演3.「生命体と情報技術」
テーマ
「ニューロインフォマティクス:脳のシステム的理解を目指す情報基盤」
パネラー
独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター
ニューロインフォマティクス技術開発チーム チームリーダ
 臼井 支朗
ガイド
「ニューロインフォマティクス」は、脳・神経科学と情報科学を融合し、そうした脳の構造と機能の解明・理解のみならず、 脳疾患の治療、新しい情報技術の創出など多方面の展開が期待されるIT時代の脳・神経科学の研究基盤である。近年、脳に関する膨大なデータが最先端の技術を用いた実験により得られるようになってきた。しかし、脳をシステムとして理解するためには、こうしたデータを統合的に理解する必要があるため、経済協力開発機構(OECD)においても、この8月、国際協力機構INCF(International Neuroinfomatics coordinating Facility)が設立され、我が国も、本年4月、理研BSIに神経情報基盤センター(NIJC)が設立された。21世紀における科学技術の夢の1つとして、世界の研究者が協力してアトムの脳のようなVirtual Brainの実現を目指してニューロインフォマティクスが展開されていくことを期待している。
テーマ
「脳と情報の科学」
パネラー
独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター センター長 甘利 俊一
ガイド
 21世紀の脳科学は、生命科学、情報科学、人間科学を融合した、人を理解するための基本的な科学になるに間違いない。脳はこれまで主として実験科学として、その構造と機能を探ることが主であった。これが進展し事実が明らかになるにつれ、その働きの細部ではなくて本質を捉えるための理論が必要になる。計算論的神経科学は、脳における情報の表現と計算のアルゴリズムを理論モデルとして解析し、実際の脳の機能の理解に迫る。一方、脳の仕組みに学んだ新しい情報技術の開発も進められている。脳型のロボットの開発もそのひとつである。
本講演では、脳科学の現状を探ると共に、理論脳科学のこれからの行方、脳型技術の方向、さらに数理脳科学の発展について展望してみたい。
(上記の文は各講師による講演梗概からの抜粋です。)
<記念パーティ> 18:15〜20:00